Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『なめくじに聞いてみろ』(都筑道夫)

 

 都筑道夫『なめくじに聞いてみろ』(1962年)読了。旧題『飢えた遺産』、岡本喜八監督の大傑作『殺人狂時代』の原作だ。どういうタイミングかわからないけど新装版で文庫化されていたので手に取ってみた。奇想天外な武器を操る10人の殺し屋との闘いを描く快テンポのアクション小説。いやあ楽しかった!

 

 解説は岡本喜八監督。映画化に際しての紆余曲折やお蔵入りからカルト化までのエピソードはとても興味深い。元のシナリオは日活で宍戸錠主演の企画だったらしい。次々殺し屋が現れて技を競う『なめくじに聞いてみろ』と、ギャビン・ライアルの『深夜+1』をネタ元に作られたのが『殺しの烙印』なのかな。ちなみに第七章のタイトルは『ブルー・クリスマス』だったりして喜八ファンとしてはニヤリとさせられる。

 

 映画版との最大の変更点は主人公の造形。原作では主人公の背景が最初から明らかにされていてかなりヒーローっぽい。映画版ではもっとコミカルで謎めいた男(仲代の怪演!)に変更されてた。主人公の設定や事件の背景は次第に明らかになっていくという映画的な脚色がなされていた。

 

 要所要所で描かれる、昭和30年代の東京の風景描写も楽しい。殺し屋の対決などという無国籍アクション風のお話を東京の風景に溶け込ませているのがとても面白い。クライマックスは何と今住んでる市川だったりして。

 

 都筑作品を読んだのは初めて。著作を調べてみたけどユーモア・ミステリーの人なのかな。「なめくじ長屋捕物控」なんて時代物シリーズもあったりして、「なめくじ」にこだわりでもあるのか。