Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『内面からの報告書』(ポール・オースター)

 

 

 ポール・オースター『内面からの報告書』Report from the Interior(2013年)読了。『冬の日誌』(2012年)に続く自伝的エッセイで、『冬の日誌』が「ある身体の物語」であったのに対し、こちらは表題通り『内面からの報告書』です。

 

 本書は大きく四つの章に分かれています。第一章「内面からの報告書」では、家族やスポーツの思い出など少年時代のエピソードを通じて、幼少期の「内面」が描かれています。続く第二章「脳天に二発」では、少年時代に大きな衝撃を受けた2本の映画について詳しく語っています。第三章「タイムカプセル」では、後に最初の妻となる女性に宛てたラブレターを通じて、学生時代の「内面」が描き出されています。時代背景、恋愛感情、ユダヤ人であることについて、そして物書きとしての意識が芽生え成長していく若き日の「内面」が生々しく伝わってきます。最終章「アルバム」は、ここまで描かれたエピソードを補完する写真や広告、イラストなどがコメント付きで掲載されています。

 

 自らの生い立ちを通じ「内面」を探る本書の中で、少年時代に大きな衝撃を受けた映画について語る「脳天に二発」は異彩を放っています。ここで語られる2本の映画は『縮みゆく人間』『仮面の米国』。『縮みゆく人間』(1957年)は放射能の影響で身体が縮小化してゆく男の恐怖を描いたSF映画。原作・脚本リチャード・マシスン、監督ジャック・アーノルド、主演グラント・ウィリアムス。『仮面の米国』(1932年)は脱獄囚の自叙伝を原作とした犯罪物。監督マーヴィン・ルロイ、主演ポール・ムニ。2本とも展開が異様なくらい詳細に書き込まれていて、オースターの生い立ちに別の物語が侵入してくるような感じです。これは物語の中で別の物語が語られるというオースターの小説でおなじみの構造を思わせます。また、この2本の主人公を襲う理不尽な展開(『縮みゆく人間』の主人公は必死にサバイブするが、身体はなすすべもなく縮小化し、『仮面の米国』の主人公は投獄された刑務所内で、また脱獄した外界でも非道な扱いを受け続ける)もまたオースターっぽいなと思いました。