Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『サンセット大通り』(ビリー・ワイルダー)

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サンセット大通り』 Sunset Boulevard


 監督/ビリー・ワイルダー
 脚本/チャールズ・ブラケットビリー・ワイルダー、D・M・マーシュマン・Jr
 音楽/フランツ・ワックスマン
 撮影/ジョン・サイツ
 出演/グロリア・スワンソンウィリアム・ホールデンエリッヒ・フォン・シュトロハイム、ナンシー・オルソン
 (1950年・110分・アメリカ)


 ちょっと時間が経ってしまったけれど、2012年の劇場鑑賞一本目、ビリー・ワイルダー監督サンセット大通りについて。MOVIX利府で開催中の「午前十時の映画祭」にて、2/5に鑑賞。いきなり60年も前の映画なんだけど、これは単なるクラシック映画ではない。カルトの風格漂う実に魅惑的な映画であった。さすがはジョン・ウォーターズデヴィッド・リンチら名だたる監督に愛されているのも納得だ。


 ハリウッドで成功を夢見る脚本家ジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)は、脚本がなかなか映画会社に採用されず、貧乏にあえいでいた。ある日、借金の取り立て屋に追われたジョーはサンセット大通りの古い屋敷へと逃げ込む。その屋敷には、サイレント映画時代のスター女優ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)と召使のマックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)がひっそりと暮らしていた。銀幕への返り咲きを夢見るノーマが執筆した脚本の手直しを依頼されたジョーは、屋敷に住み込みで執筆作業を開始するのだが・・・。


 タイトルバックは、サンセット大通りを走る白バイとパトカー。とある屋敷に到着した警官隊はプールに浮かぶ男性の死体を発見する。この死体こそが主人公、脚本家のジョー・ギリスだ。映画はジョーのモノローグで進行してゆく。自らの死に至るまでのいきさつを語るジョーのモノローグは、さすが脚本家だけあって流暢で饒舌だ。ジョーの語りで説明的な部分を省略し映画のテンポを上げつつ、フラストレーションを抱えた脚本家というジョーのパーソナリティーを演出、さらにはサイレント時代の女優ノーマに「映画は言葉に殺されてしまった」と批判的に語らせて皮肉な効果を上げている。


 世間から忘れられたサイレント時代の人気女優ノーマを演じるのは、実際にサイレント時代の大女優であったグロリア・スワンソン。その忠実な召使マックスを演じるのは伝説の映画監督エリッヒ・フォン・シュトロハイム。カムバックを目論むノーマが訪ねるのは映画監督セシル・B・デミル(本人が実名で出演。堂々たる貫録)。屋敷に集まりカードゲームに興じるメンバーにはバスター・キートンの姿も。かようにハリウッドの神話に属する出演者たちが多数出演し、虚実織り交ぜたスリリングな面白さを醸し出している。


 映画を牽引するのは、過去の栄光に生きるノーマが発散するビザールなオーラだ。グロリア・スワンソンの熱演に加え、ノーマのエキセントリックな振る舞いを強調する細部の演出が面白い。深夜に行われる猿の葬式、寂れた大邸宅の佇まい、鍵の無い扉、招待客のいない大晦日のパーティ(延々演奏を続ける楽隊)・・・。時代錯誤で横暴なだけではなく、自殺を図った後のいじましい姿や、撮影所を訪問してかつてのスタッフや俳優仲間に取り囲まれて幸せそうな姿もきちんと描かれ、ノーマの複雑なパーソナリティーが巧みに表現されていた。


 一方で、主人公と撮影所で知り合った脚本家志望の秘書ベティー(ナンシー・オルソン)との交流場面は映画の息抜きとなっている。都会のセットが組まれた深夜の撮影所で語り合う場面など忘れ難い。


 死人の回想録という変則技で、ハリウッドの光と影を語り尽くすビリー・ワイルダーの匠の技を堪能した。副読本にはケネス・アンガーの『ハリウッド・バビロン』が相応しい。サイレント時代の女優を巡るお話ということで、我が国の『夢見るように眠りたい』(林海象)と二本立てはどうだろうか。


ハリウッド・バビロン ?

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