Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

5月に見た映画

 昨日の続きです。5月に入ってから見た映画の感想をまとめて書き記しておきます。マカロニウエスタン3本は後日改めて詳しい感想を書きたいと思っています。


『キラー・キッド』(レオポルド・サヴォーナ) 1967年 イタリア 
 日本劇場未公開(TV放映のみ)のマカロニウエスタンその1。『地獄から来たプロガンマン』のアンソニー・ステファンが「キラー・キッド」とあだ名されるガンマンを演じる。いつもは悪役(主にメキシコの山賊)専門のフェルナンド・サンチョが珍しく主人公サイドで活躍するのが何だか嬉しかった。

キラー・キッド [DVD]

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カーバー&パコ〜トゥー・マッチ・ゴールド』(ジュアン・ボッシュ 1972年 イタリア/スペイン 
 日本劇場未公開(TV放映のみ)のマカロニウエスタンその2。まるでカーバーとパコという2人のガンマンのバディものみたいな邦題だけど、そういうお話ではない。カーバーは途中で死んじゃう爺さん、パコは脇役のメキシコ人。トゥー・マッチ・ゴールド、ってのはまあそうなんだけど。アンソニー・ステファン主演作としては『キラー・キッド』の方が面白かった。


『ラシター&マーティン〜砂漠の10万ドル』(J.R.マーチェント) 1966年 イタリア 
 日本劇場未公開(TV放映のみ)のマカロニウエスタンその3。マカロニウエスタンといえばキャラの立った主人公と敵役、というシンプルな人物関係がほとんどで、それほど複雑なものはない。本作はマカロニにしては珍しく群像劇の趣がある。傑作とかそういうものでもないけれど、ちょっと毛色の変わったマカロニで楽しめた。ちなみに先の『カーバー&パコ』同様に、まるでラシターとマーティンという2人のガンマンのバディものみたいな邦題だけど、そういうお話ではない。しかも砂漠すら出てこないんだから全くいい加減な。マカロニらしいといえばそれまでなのだが・・・。



アメリカを斬る』(ハスケル・ウェクスラー 1969年 アメリ
 名カメラマン、ハスケル・ウェクスラーの監督作。ドキュメンタリーとドラマの大胆な融合を試みた野心作で、この時代ならではのフィルムの質感がとてもいい。ラスト(男女の交通事故、カメラにカメラを向けるショット)は思いっ切りゴダールの『軽蔑』だったりして興味深かった。主演の男女を演じるロバート・フォスター(『アリゲーター』『ジャッキー・ブラウン』)、ヴェルナ・ブルーム(『さすらいのカウボーイ』)も初々しい。

アメリカを斬る [DVD]

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『マイ・シネマトグラファー』(マーク・S・ウェクスラー) 2004年 アメリ
 こちらはジャーナリストであるウェクスラーの息子マークが父ハスケルについて撮ったドキュメンタリー。ハスケル・ウェクスラーは予想通りとんでもない頑固親父で、強大な父権を行使しまくる。いい年齢していまだ父の引力から逃れられない息子の悪戦苦闘ぶりが気の毒だ。

マイ・シネマトグラファー [DVD]

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『贖罪』TVM(黒沢清 2012年 日本 
 湊かなえ原作のミステリー小説を黒沢清が映像化した連続ドラマ。まるで女性版『ミスティックリバー』みたいなお話で、不愉快極まりない。「真犯人の犯行の動機は○○でした」というオチは、ミステリーとしては決着付いているのかもしれないけれど、ドラマとしては割り切れなさばかり感じてしまった。不快なお話には原作のテイストが濃厚なのだろうとは思うが、コミュニケーションの不可能性を前提とした人間把握は実は『回路』でも描かれていたように黒沢監督のものでもある。黒沢監督は『回路』『アカルイミライ』のような沈んだ色彩で全編を統一し、時折ホラー映画のごとき過剰な描写でアクセントをつけて、リアリズムとは若干違うレベルで仕上げている。いっそのこと、4人の女性の霊が甦り、真犯人と不条理な要求を突きつけて人生を狂わせた人物に対して復讐を遂げるお話なら良かったのにと思う。いやマジで。

贖罪 (ミステリ・フロンティア)

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『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』(牧口雄二 1976年 日本 
 70年代東映の一ジャンルとなったエロティック時代劇、とりわけ「異常性愛路線」と称される一連の作品群は名画座(今は亡き大井武蔵野館!)の定番であった。ドギツさにおいてはその代表格と言える牧口作品も今やソフト化されて、家庭で鑑賞できるようになった。キリシタン弾圧を口実にSM拷問ショーが延々続く前半、遊郭を足抜けしようとした男女の悲喜劇を描く後半、ともに2012年の今見ても唖然とするような強烈さだ。東映の「異常性愛路線」においては、映画的な誇張を施した石井輝男、社会風刺を持ち込んだ鈴木則文に比べると、牧口雄二の場合はあまりに職務に忠実過ぎたのだろう。誰もここまでやれとは言ってない気がするなあ。川谷拓三の妙演でユーモアが加味されているのがせめてもの救い。冒頭から「ブビョヲヲヲン」という感じの不快な電子音が鳴り響く音楽がインパクト大。



キングコングの逆襲』(本多猪四郎 1967年 日本 
 監督・本多猪四郎、音楽・伊福部昭特技監督円谷英二の素晴らしき東宝特撮映画の世界。映画としてはかなりユルい方だと思うけれど、愉快な気持ちになれた。主人公たちよりも、悪役の女スパイ(浜美枝)、マッド・サイエンティスト(天本英世)の方が俄然生き生きしている。この頃の東宝映画に必ず脇役で顔を見せる沢村いき雄が半裸で島の原住民の老人を演じている。悪の手下には初代ウルトラマンこと黒部進の姿も。クライマックスは東京タワーでキングコングとメカニコングの戦いが繰り広げられる。いつか怪獣が東京スカイツリーを破壊する特撮映画も作られるのだろうか。

キングコングの逆襲 [DVD]

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アサルトガールズ』(押井守 2009年 日本 
 ゲームは映画や小説を模倣して世界観を構築し進化してきたが、これはまるで映画がゲーム(しかも時代遅れの)を模倣しようとしているかのようだ。『うる星やつら2/ビューティフルドリーマー』『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の押井守にしてこの退行ぶりはどういう訳なのだろうか。何かタチの悪い冗談だと思いたい。

アサルトガールズ [DVD]

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『たまもの』(いまおかしんじ 2004年 日本 
 元は『熟女・発情 タマしゃぶり』というピンク映画である。映画の出自はどうあれ、これは全編きちんと演出され尽くした見事な日本映画である。性愛と料理(弁当作り!)の丹念な描写、郊外のリアルな人間模様、今や伝説となった女優・林由美香がほぼ台詞無しで熱演するヒロインの存在感。お話としては「不可解な行動を取る無口な女に振り回される男の心情」ではなくて、「何の魅力も無い男に何故か献身的に尽くす女の行動」という視点で描かれているのが面白いなあと思う。エンディングのクレジットに見られる手作り感覚、作り手の作品への率直な愛情には強く心打たれた。いい映画だと思う。

たまもの [DVD]

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