Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『切り裂きジャックはあなたの友』(ロバート・ブロック)

切り裂きジャックはあなたの友―ロバート・ブロック短篇集 (ハヤカワ文庫 NV 205)

切り裂きジャックはあなたの友―ロバート・ブロック短篇集 (ハヤカワ文庫 NV 205)


 現在ロベルト・ボラーニョの長編『野生の探偵たち』に取り組んでいる。上巻を読み終えたところで、ちょっとブレイク。全く方向性の違うものを読みたくて、ロバート・ブロックのホラー短編集切り裂きジャックはあなたの友』(1979年)を手に取ってみた。


 本作に収録された14の短篇は、第二次大戦前後に発表されたもの。そのせいかいささか古めかしいというか、強引過ぎるくらいショッキングなオチで落とすところに何だか懐かしさを感じてしまった。「ショート・ショート」という言い方を久しぶりに思い出してしまったよ。


 ブロックといえばヒッチコックの『サイコ』の原作者として知られる人物。実録犯罪には多大な興味を抱いていたのだろう。この短編集にも切り裂きジャックやらリジー・ボーデンやら実録殺人者ネタがいくつも含まれているのであった。表題作『切り裂きジャックはあなたの友』など、実録殺人者ネタにオカルト的な味付けをしているのが特色か。


 『かぶと虫』『呪いの蝋人形』『修道院の饗宴』といった古典的なネタ(ミイラの呪い、呪術、邪教の館、等々)をモチーフとした作品も楽しい。特に気にいったのは、映画ネタの『安息に戻る』。怪奇映画の主演俳優が「本物」だったという『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』を思わせるお話で、そのまんま映画化出来そうな感じだった。さておき、ホラー小説ならではの楽しさを満喫できる楽しい短編集であった。