Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『超動く家にて』『エクソダス症候群』『ディレイ・エフェクト』(宮内悠介) 

 

 

 

 日本のSFを読みたくて、宮内悠介をチョイス。三冊読んでみて、すっかり気に入ってしまった。

 

 最初に読んだのが、短編集『超動く家にて』。後書きに曰く「ネタに偏った作を集めた」短編集。捻ったユーモアでジャンルを横断する面白い作品が並ぶ。表題作は、宇宙船を舞台にした奇怪なミステリー。ウイリアムギブソン村上春樹をミックスした、パン屋ならぬ『クローム再襲撃』なんてのも。収録作品の中では、比較的シリアスな『アニマとエーファ』『弥生の鯨』が好きだった。

 

 

 

 『エクソダス症候群』(2015年)は、火星を舞台にした長編。最先端の科学と馬車が行き交う西部劇のような光景が混在する世界が興味を引く。火星の開拓地にある精神病院に渦巻く陰謀。精神医療についての難解な問答が交わされる一方で、主人公の出自にまつわるミステリー、病院最古の患者チャーリーが仕掛ける罠、とエンタメ要素も充分。

 

 

 

 短編集『ディレイ・エフェクト』。表題作は、戦時下の暮らしが半透明で見える怪現象が東京を襲うSF。二つの時代の生活が同時進行し、やがて東京大空襲の日が迫る‥‥。奇想に寄らぬ細部の丁寧な描写に味わいがある。上手いなあ。併録の『空蝉』『阿呆神社』は非SFながら作者の多彩な作風を印象付ける好編だった。

 

 宮内作品はとても気に入ったので、もう少し読み進めてみようと思う。