Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『完全なる首長竜の日』(乾 緑郎)

【映画化】完全なる首長竜の日 (『このミステリーがすごい! 』大賞シリーズ)

【映画化】完全なる首長竜の日 (『このミステリーがすごい! 』大賞シリーズ)


 乾 緑郎『完全なる首長竜の日』読む。2011年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作だから・・・というよりも、黒沢清監督の新作の原作として興味を持ったので手に取ってみた。


 主人公は少女漫画家の淳美。自殺未遂を起こして昏睡状態にある弟の浩市と「SCインターフェース」を使い対話を続けている。「SCインターフェース」とは、昏睡状態にある患者の意識下に潜り込む(センシングと呼ばれる)事が出来る医療器具。淳美はセンシングによって浩市の自殺の原因を探ろうとするが・・・というお話。


 複雑な内容のわりに、すっきりと読みやすい文章のおかげでスラスラと読み進む。内面世界への踏み込み、SF的なガジェット、過去の文学作品やコミックの引用の数々、どれも凝り過ぎずほどほどの塩梅。とてもスマートな小説だと思った。個人的にはもっとこってりした小説の方が好みだけれど。とにかく読みやすい小説だったので、札幌出張の際に仙台駅の本屋で購入して、移動時間のうちにあっさり読み終えてしまった。


 作中で、他者の意識下の世界に登場する人物たちは「フィロソフィカル(哲学的)ゾンビ」と呼ばれる。「黒沢清作品の原作」という目でみると、こんな台詞がどう処理されているのか興味深い。


「(フィロソフィカルゾンビとは)徹頭徹尾、意識やクオリアを持たない存在、つまり外面だけで内面を持たない存在のことをいうんだ。つまり虚無だ」


「人は、死んだらどうなると思う?」


「肉体の死は、死の第一段階に過ぎない。魂はバラバラに分散して、その者を知っていた他者の心の中に宿る」



 映画版『リアル 完全なる首長竜の日』は間もなく(6/1より)公開される。キャストを見ると思いっきりメジャー大作の模様。黒沢監督としては前作『贖罪』に続いての原作ものだ。主人公の男女が姉弟から恋人になっていたり、要所の設定も変えてある模様。黒沢監督がこの原作をどう料理しているか楽しみ。主人公が砂浜で宝探しをする印象的な場面がちゃんと映像化されていると嬉しいのだが。