007シリーズ第16作目、ティモシー・ダルトン主演『007 消されたライセンス』鑑賞。ティモシー・ダルトン=大塚芳忠、キャリー・ローウェル=勝生真沙子の日本語吹替版にて。個人的にはシリーズで唯一未見だった一本です。
ロジャー・ムーア時代の007はユーモアを基調としていて、ストーリーやアクションもかなり荒唐無稽なものでした。ムーアの後をうけて登場したティモシー・ダルトンの007は、シリアスなタッチでアクションもかなりハード。『リビング・デイライツ』では上手くハマッていたなあと思うのですが、『消されたライセンス』はいささかちぐはぐな印象を受けました。個人的には、ボンド映画らしくない(旧ボンド映画ファンに評判の悪いダニエル・クレイグ版よりももっと)なあと。シリーズに特に思い入れの無い自分ですらそう感じたのですから、ファンの違和感は相当なものがあったのではないかと思われます。
本作の悪役は南米の麻薬王サンチェス。演じるのは『マニアック・コップ』等で知られるアバタ顔の強面ロバート・ダヴィ。凄みのあるいい役者さんだと思いますが、ダヴィがあまりにキャラが立っているのと、ボンドが復讐の為に007職を辞して行動するという展開もあって、前半はまるでボンド映画を見ている感じがしません。酒場で殴りあいが始まるというアメリカンな見せ場があったりして、何だか普通のB級アクション映画を見ているようでした。
加えて、バイオレンス描写が相当に血なまぐさい。CIAのフェリックス・ライターが鮫に足を食いちぎられる場面、悪役が減圧室で頭部破裂に至る場面、用心棒がベルトコンベアの機械に挟まれる場面など、これまでもボンド映画では見たことがない演出でした。被害者が鮫の泳ぐ水槽に落とされる場面はこれまでに何度も出てきましたが、直接描写は無かったし、頭部破裂だって『死ぬのは奴らだ』のヤフェット・コットーの時はもっと荒唐無稽で笑っちゃうような見せ方でした。ロジャー・ムーア時代の作品を何作も手がけたジョン・グレン監督は、ボンド役が変わったことで今までやってなかった生々しい演出を試みたのかもしれません。
それなら最後までハードな路線で行くのかと思いきや、中盤には忍者が登場したり、ラストはいかにもボンド映画っぽい悪の秘密基地(宗教施設に隠された巨大な麻薬工場)が出てきたりで、何かこうちぐはぐな感じがしました。休暇を取って遠征してきた秘密兵器担当のQ(デスモンド・リュウェリン)が活躍するのは楽しいけれど、そこだけいかにも従来のボンド映画っぽいリラックスした雰囲気で逆に違和感あったなあ。
脇役には悪徳刑事役でエヴェレット・マッギル、サンチェスの用心棒役でベニチオ・デル・トロ(若い)、麻薬捜査官役でケリー・ヒロユキ・タガワの姿も。アジア系俳優の脇役出演はボンド映画っぽいですね。
さておき、今年に入ってBSで日本語吹替版の007を連続放映していることもあって、初期ショーン・コネリーからジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトンに至るシリーズ全作品を見直しました。色々と思うところあったので、後日感想を書き記そうと思っています。
(『007 消されたライセンス』007 License to Kill 監督/ジョン・グレン 脚本/マイケル・G・ウィルソン、リチャード・メイボーム 原作/イアン・フレミング 音楽/マイケル・ケイメン 撮影/アレック・マイルズ 出演/ティモシー・ダルトン、キャリー・ローウェル、ロバート・ダヴィ、アンソニー・ザーブ、エヴェレット・マッギル、タリサ・ソト、ベニチオ・デル・トロ 1989年 133分 イギリス/アメリカ)
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