Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ジャージー・ボーイズ』(クリント・イーストウッド)

 見逃していたクリント・イーストウッド監督の『ジャージー・ボーイズ』をチェック。60〜70年代に活躍したニュージャージー出身のヴォーカル・グループ、フォー・シーズンズを描く伝記映画です。イーストウッド監督としては『バード』『J・エドガー』に続く伝記映画となります。トニー賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化ということで、イーストウッド本来の暗さ、『J・エドガー』を覆っていた得体の知れない不気味さは全く感じられません。ベテランらしい職人的な演出に徹した楽しい作品に仕上がっています。舞台を意識してか、登場人物がカメラに向かって語りかけるというウディ・アレンのコメディみたいな演出もあり、こんなに軽やかなイーストウッド映画は初めてじゃないでしょうか。

 
 お話はバンドのサクセス・ストーリーなので、若い頃の友情、成功を手にした後は家庭の崩壊、バンドの仲間割れ、とお決まりの展開です。そこに新鮮味はあんまり感じられませんが、フォー・シーズンズ4人の顔つき(特に自称リーダー、トミー・デヴィート役ヴィンセント・ピアッツァのいかにもチンピラ然とした顔つきや振る舞い)、街の人々の顔つき体つき、あんまりガラの良くない街の描写にリアリティがあります。主人公たちが地元へ持つ愛憎がきちんと伝わってくるのも良かった。何しろタイトル『ジャージー・ボーイズ』ってくらいなんで、ここも大事なテーマですね。


 終盤、メンバーの借金を巡ってバンドは崩壊の騒ぎに発展します。でも、あんまりドロドロしていないんだよね。ドロドロした嫌な場面を描かない、という訳ではなくて、この4人組本来の距離感という風に見えました。顔役のお屋敷でメンバーが感情をぶつけ合う場面も、悲壮感よりもどこかあっけらかんとしたユーモアが漂っていました。激高したニックがトミーの悪癖をあげつらう場面も、言った先から「なんだそりゃ」と笑っちゃうような感じで。この辺は非常に男の子っぽい感じがしました。オリジナルの舞台の通りなのか、酸いも甘いも噛み分けたイーストウッド翁の演出タッチなのかは分かりませんが。


 地元の顔役ジップ・デカルロを演じるのはクリストファー・ウォーケン。最近はアベルフェラーラの『ギャング・オブ・ニューヨーク』や『フューネラル』などに代表される「おっかない人」というイメージがありますが、元々は舞台のミュージカル出身なんですね。近年ではファットボーイ・スリムのPV「Weapon Of Choice」(監督スパイク・ジョーンズ)でクールに踊る姿も記憶に新しいところ。『ジャージー・ボーイズ』ではウォーケンの「おっかない人」と「音楽好きのいい人」の両面の顔が楽しめます。エンドロールではちゃんとステップ踏んでますよ。ウォーケンが若い頃に出演したミュージカル『ペニーズ・フロム・ヘブン』(1981年)とか見てみたいですね。


 エンドロールは、舞台のカーテンコールのように出演者が勢揃いしてのミュージカル場面となっています。曲が良いのはもちろん、登場人物が皆歌い踊る(別れた妻や取り立て屋のおっさんまで)のが何とも言えず楽しい。歌い踊りながら通りを進む登場人物たちを、(これ舞台じゃ見れないアングルだよね?)ってな感じで後方から捉えたショットが何度か挿入されるのが印象的でした。


(『ジャージー・ボーイズ』JERSEY BOYS 監督/クリント・イーストウッド 脚本/マーシャル・ブリックマン、リック・エリス 撮影/トム・スターン 出演/ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、ヴィンセント・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン、マイク・ドイル、レネー・マリーノ、エリカ・ピッチニーニ 2014年 134分 アメリカ)