Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『下品こそ、この世の花: 映画・堕落論』(鈴木則文)


 昨年5月に亡くなった鈴木則文監督のエッセイ集『下品こそ、この世の花: 映画・堕落論』(2014年)読了。鈴木則文監督といえば、任侠映画(「緋牡丹博徒」シリーズほか)、「トラック野郎」シリーズ、喜劇映画、ポルノ映画、漫画原作の映画化、と何でもありのフル回転で東映娯楽路線を牽引した偉大な監督です。


 本書は自作の裏話、少年時代の思い出、助監督時代の苦労話、美空ひばり藤純子といった「スター」に対する思い、劇画原作を書いた話、等々、様々なエッセイが収録されています。(初出は「映画芸術」や「シナリオ」等)異色なところでは三島由紀夫の自害に関する考察なども。どのエッセイからも、鈴木監督の映画(というよりも「娯楽」というもの)に対する熱い想いが迸っています。映画監督を打ち上げ花火師にたとえた一文など、娯楽に殉じた男の心意気が伝わる名文です。


 以前岡本喜八監督のエッセイ集を読んだ時、非常に興味深かったのは、喜八監督が東宝時代の師匠であるマキノ雅弘成瀬巳喜男について語った部分でした。撮影所の師弟関係による演出術の継承という古き良き時代の貴重なドキュメントになっていました。本書もまた、東映という撮影所の貴重なドキュメントになっています。助監督時代のエピソードやシナリオ執筆の苦労話、名物プロデューサーの話、内田吐夢監督の話など、東映というこれまた非常に特徴的な撮影所の様子が生き生きと綴られています。


 個人的に、鈴木則文監督のファーストインパクトは実写『ドカベン』(1977年)です。田舎の映画館ではジョン・ギラーミンギラーミンも先日亡くなりました)監督の『キングコング』と二本立てでした。多作なのでさすがに全作品はカバーしていませんが、その後レンタルや中古ビデオで追いかけて、『現代ポルノ伝 先天性淫婦』(1971年)、『温泉スッポン芸者』(1972年)、『聖獣学園』(1974年)等々、快作怪作の数々には強いインパクトを受けました。仙台に住んでいた頃、当地の桜井薬局セントラルホールのレイトショーで『コータローまかりとおる!』(1984年)、『堕靡泥の星美少女狩り』(1979年)見たのも良い思い出です。膨大なフィルモグラフィーの中でも、時代劇ポルノの『徳川セックス禁止令 色情大名』(1972年)、『エロ将軍と二十一人の愛妾』(1972年)は反権力とエロとユーモアが爆発する大傑作だと思います。現在はDVD化されてレンタル屋さんの棚にも並んでいるので、未見の方は是非チェックしてみて下さい。


 それにしても本書のタイトルは素晴らしい。『下品こそ、この世の花』!鈴木監督の映画に触れたことのある映画ファンなら、きっと『下品こそ、この世の花』の言葉に大きく頷くことでしょう。


徳川セックス禁止令 色情大名 [DVD]

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