Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『映画のメリーゴーラウンド』(川本三郎)

 

 川本三郎氏の近著『映画のメリーゴーラウンド』(2021年)読了。2018年から2020年にかけて電子媒体(ぴあアプリ版)に連載していたものらしく、どちらかといえば軽めの内容。映画の話題をしりとり風につなげていく趣向で、俳優名や監督名ではなく映画に登場する小道具や場所、乗り物等のディテールで繋げていきます。邦画、洋画、クラシック、新作問わず幅広いジャンルの映画が登場するので楽しい1冊でした。あとがきで川本氏は「映画批評はどうしても作品論、監督論となりがちで、ディテールを語ることはつまらぬことだと切り捨てられがちになる」「作り手が思いを込めた細部を無視するのは納得出来ない」と。これは全くその通りで、ディテールは映画の大きな魅力の一つだと思います。

 

 読み終えてみると、映画そのものの話よりも、映画と映画をつなぐディテール、例えばメジャー・リーグのチームドジャースの名前の由来とか、お化け煙突の話とか、荒川が人工河川であることとか、作家イエジー・コジンスキーの生涯とか、汽車住宅とか、そういったエピソードが記憶に残ります。この本に登場する映画を見る機会にはそういったエピソードを思い出して、映画をより一層楽しめるだろうと思いました。ちなみに一番気になったのはジュークボックスの話。ジュークボックスの有名なメーカーにワーリッツアー社というのがあり、脚本家ルディ・ワーリッツアー(モンテ・ヘルマン『断絶』、ペキンパー『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』、アレックス・コックス『ウォーカー』!)はその一族の出身だという。へえ。

 

 多彩な作品と小道具が採り上げられる中で、何度も登場するのが鉄道(乗り物)のエピソード。女優ではシアーシャ・ローナンが繰り返し出てくるので、よほどお気に入りなのだなと微笑ましい気持ちになりました。それにしても、川本氏の文章とは、様々な雑誌や映画パンフレットの寄稿はもちろん、80年代の『都市の感受性』から本作まで、長いお付き合いとなりました。