Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『モモちゃんとアカネちゃん』(松谷みよ子)


 ウチの小さなマリーが6歳になりました。大きな病気や怪我も無く無事に6歳を迎えられて感謝感謝です。最近は「HUGっと!プリキュア」に夢中で、エンディングになると曲に合わせて歌い踊っている。というか踊り狂っているという表現がぴったりくる熱狂ぶり。ラップのパートがあったりするテンポの速い楽曲なんで、こんなの良く覚えたなと驚かされる。まあ、何でもいいや。ずっと元気でいてくれればね。


 先日娘が「パパご本を読んであげるよ。怖いお話だよ」と言う。何かと思って見るとたら『モモちゃんとアカネちゃん』だった。『モモちゃんとアカネちゃん』は、小さな女の子モモちゃんと妹のアカネちゃんと家族のお話で、シリーズとして長く続いていたようだ。妻も子供の頃に愛読していたと言っていた。ちなみに本書の初版は1974年というから確かにロングセラーだ。題名と表紙の絵を見て、ほのぼの系じゃないか何が怖いのと油断していたら、マジで怖かったですよこれ。娘が読み始めたのは「ママのところへ死に神がきたこと」というエピソード。


 毎晩パパが帰ってくる音はするが姿は見えなくて、玄関に靴があるばかり。ママが眠っていると部屋に死神が現れてあの世に連れ去ろうとする。ママは助けを求めるが、パパは靴なので何もしてくれない。もうダメだ、というところで、赤ちゃんの声がして死神は去り、朝が来る。何のオチもない、異様なエピソード。要はこれ、夫婦の不和と育児疲れで不安定な状態に陥った母親の精神状態を描いたものだった。


 娘が眠ったあとにじっくり読んでみたら、その後のエピソードでもパパはずっと靴のままで、死神は度々ママのもとにやってくる。最後の方で、夫婦は別居することになる。ママと娘たちが家を出た後、しばらくしてパパが外に出ると、モモちゃんが使っていた鞠が落ちているのを見つける。パパは鞠をじっと見つめて、拾うでもなくそのまま歩き去る。ゾッとするような淡々と突き放したタッチで、これホントに子供向けなの?と驚いた。と同時に長年に渡って読み続けられている理由がわかったような気がした。


 怖いところばかり強調してしまったけど、子供らしい日常スケッチのエピソードも素晴らしかった。本書は日常の出来事と夢や妄想が同じテンションで描かれているのが大きな特徴で、それ故に、子供らしい夢と日常の境い目がない感覚に妙なリアリティが感じられる。



 おばあちゃんからお誕生日のプレゼントにいただいた『エルマーとりゅう』を読み耽る娘。このまま読書好きの子に育って欲しいなと、心からそう思う。