Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アムニジアスコープ』(スティーヴ・エリクソン)

 

 

 スティーヴ・エリクソン『アムジニアスコープ』(1996年)読了。エリクソン作品は『彷徨う日々』を読んで以来、15年ぶり。近未来のアメリカ、大震災が起きて廃墟と化したL.A.が舞台です。SF的な設定や仕掛けはあれこれ出てきますが、それが中心となって展開することはなく、結局は中年男の魂の軌跡と女性遍歴が中心の身につまされる物語でした。

 

 エリクソンUCLAで映画を専攻していたとのことで、『彷徨う日々』も幻の大作映画を巡るお話だったと記憶します。本作でも映画がらみのエピソードがいくつか出てきて印象に残りました。元作家の主人公は新聞に映画評を書いていて、ある時、存在しない映画をでっち上げて記事を書いたら評判になってしまいます。物語の終盤で、主人公はその映画評の載った新聞のバックナンバーを探しますが、自分が書いた記事がまったく見つからない・・・というエピソードが特に興味深かった。あ、なるほどアムニジア(記憶喪失)か。アングラ映画のオーディションのエピソードも面白い。『恐怖のまわり道』から始まりノワールジャンルのタイトルが頻出するのも楽しかった。翻訳は、この人の訳本にハズレなしの柴田元幸氏。