Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ヴィム・ヴェンダース未公開短編特集』

 

 菊川のミニシアターStrangerにて、ヴィム・ヴェンダースの初期短編3本がレイトショー上映されるというので行ってきました。ヴェンダース本でタイトルは知ってたけど、どれも未見だったのでありがたい。この辺の作品は時折YouTubeなどに上がることがあって、『アラバマ:2000光年』『都市の夏 キンクスに捧ぐ』は見ることが出来たけど、この3本は全くの初見。

 

 『セイム・プレイヤー・シューツ・アゲイン』(1967年)は12分の短編で、ヴェンダースの2作目の作品とのこと。おードイツにもいたよゴダールの子供が、と言いたくなるような初々しさ。黒沢清ドレミファ娘の血は騒ぐ』風に銃を携えてよろめき歩く人物。洞口依子が出てきそうなソックリぶり。同じ映像が彩色を施されて反復される。鮮やかな彩色は『気狂いピエロ』のパーティ場面を想起。直接的には『ワン・プラス・ワン』からの影響か、と思ったら、あれ、67年って『ワン・プラス・ワン』より先か?

 

 『シルヴァー・シティー・リヴィジテッド』(1968年)は33分の短編。車、路面電車、列車、加えて線路を渡る人物、カメラの前を過ぎる鳥、雨粒に至る諸々が交差する様子を凝視するカメラ。時折入る黒味が瞬きを思わせる。TVで演奏するストーンズ(無音)。チャーリー・ワッツの長髪。これぞヴェンダースという退屈極まりない映像。『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』等、初期ヴェンダースの漂泊感覚に至る試作のような位置付けか。

 

 『リヴァース・アングル:ニューヨークからの手紙』(1982 年)は『ハメット』編集中の時期を記録した18分の短編。ヴェンダース自身のナレーションが入る「日記映画」の試作品なのだという。製作者コッポラも太々しい感じで登場。ミーティングでコッポラに忖度する編集スタッフたち。ヴェンダースの佇まいは頼りなげで、思わず応援したくなる。冒頭、「物語と映像」についての語るヴェンダースのナレーションは興味深い。曰く「物語よりもまず映像ありきなのだ」ということ。しかしこの点については、いつからか方向転換しているような印象がある。さておき『ハメット』『ことの次第』久しぶりに見直したくなった。

 

 今回の3本は、正直のところ実験映画を見慣れてる人、またはヴェンダースのファン以外にはかなり難易度が高かったかもしれないなと思う。初日だったので会場はほぼ満席。隣に大学生くらいのカップルが座っていて、『シルヴァー・シティー・リヴィジテッド』で眠くなったのかモゾモゾと落ち着きなく何度も座り直していた。ともあれ今回の3本は、初期作品だけにヴェンダース丸出し、薄味になる前の、剥き出しの意欲が漲る興味深い3本だった。