Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(ジョン・カサヴェテス)

 

 

 ジョン・カサヴェテス監督『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(1976年)鑑賞。主人公はストリップクラブを営むコズモ(ベン・ギャザラ)。ポーカーで大負けし、マフィアに借金を作ってしまう。返済の肩代わりに、対立する大ボスの殺しを強要されるが‥‥。

 

 カサヴェテスは非常にクセの強い演出をする監督なので、上手くノレる時もあれば、全く受け付けられなくて途中で挫折してしまう時もある。というか後者の方が多くて、実は最後まで見ていない作品がたくさんあるのだった。『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』も以前挫折した事があり、今回は2度目のトライ。

 

 冒頭、漢字のタイトルが縦スクロールされ、荒々しい字体のメインタイトル。音楽は無しでバックには通りの状況音が聞こえ、主人公たちの乗った車が入って来るショットに続く。主人公と女たちの日常へ直にカメラが入り込んだかのような臨場感があって素晴らしい。今回はこの冒頭部分からスッと入り込めた。

 

 ベン・ギャザラ演じる主人公コズモは、店と女たちを愛するやくざ者。のっぴきならない状況に追い込まれているのに店の事を気にかける姿が印象的。終盤、コズモは医者にも行かず、高飛びもせず結局は店に戻っていく。楽屋で芸人や踊り子たちと話し、自らMCをして観客を沸せ、カウンター席の隅でショーを眺める。そういう生き方しかできない男なのだ。ギャザラがやくざ者の悲哀を体現し素晴らしい名演を見せてくれる。

 

 主人公がこだわり続けるストリップクラブの描写も良い。店員、ショーの芸人(Mr.洗練)、踊り子たちの生々しい存在感。猥雑なステージショーが繰り返し描かれて、まるで店の常連になったような感覚だ。カサヴェテスのカメラは主人公と一体化し、ショーに注ぐ視線には愛情が溢れている。ラス・メイヤー常連のHAJIが踊り子役でクレジットされてた。

 

 本作はノワールジャンルの名作と評されている。劇中描かれる2度の銃撃場面、チャイニーズ・ブッキー殺害の場面、マフィアの殺し屋に処刑されそうになる場面。共にBGMなしの状況音のみで描かれ、息詰まるような緊張感があった。『グロリア』といい本作といい、カサヴェテスはアクション演出も上手いのだなと再確認。