Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『動くな、死ね、甦れ!』(ヴィターリー・カネフスキー)

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 ヴィターリー・カネフスキー監督『動くな、死ね、甦れ!』(1989年)鑑賞。早稲田松竹にてレイトショー。ここしばらく仕事が忙しくて、映画館は約1ヶ月ぶり。新作も見たいのが沢山あるが、何をおいてもまずこれだろうと思い足を運んだ。

 

 第二次大戦後、旧ソ連の炭鉱町スーチャンで暮らす少年ワレルカの荒々しい日常を描く。悪戯の日々を送るワレルカは、イースト菌事件(トイレにイースト菌を投じて発酵した汚水が溢れ出す!)が発覚し、退学処分を食らう。列車脱線事故をきっかけに町を飛び出したワレルカは、強盗団の仲間に入り犯罪に加担。悪童の戯れではすまない状況に陥る。そして迎える悲劇。

 

 冒頭、雪が残る炭鉱町の様子、厳しい労働で疲弊した大人たちの顔つき、無邪気に遊ぶ子供たち。ワレルカ少年の吐く息が白いところからもうグッときた。最後の暴力沙汰は事後の描写に止め、映画の締めくくりは全く別のベクトルで観客を打ちのめす。炭鉱町スーチャンはカネフスキー監督が少年時代を過ごした町だという。多分に体験談が含まれているのだろうと想像するが、ノスタルジックな自分語りは一切なく、現在進行形のドラマとして描かれているのが良い。本作はクラシック映画の風格と、撮りたてホヤホヤみたいな生々しさを併せ持つ大傑作だった。

 

 音楽の使い方も印象的。登場人物が口ずさむ流行歌が要所要所に流れる。日本の歌も。いわゆる劇伴は終盤で少し使われるのみ。

 

 日本公開当時(1995年)、自分は何故このオールタイム級の傑作を見に行かなかったのか。本作が凄い映画であることは認識していたので、みんなが褒めると見る気が失せるへそ曲がりが発動したのだったか。理由はともかく、28年越しになったとはいえ、しかと目撃した。この映画の鮮度は、恐らくここから28年先でも撮りたてホヤホヤだろうなと思う。