Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『救い出される』(ジェイムズ・ディッキー)

 

 ジェイムズ・ディッキー『救い出される』(1970年)読了。ジョン・ブアマン監督の傑作『脱出』原作。新潮文庫、村上柴田翻訳堂の一冊として復刊されてから何度か手に取ったが、あまりに厭な感じでどうしても最後まで読み通せないでいた。今回こそはと再トライし、頑張って無事読み終えることができた。

 

 カヌーで激流下りに出かけた都会の4人の男。最初は楽しかった川下りが、山の民と遭遇したことから血みどろの逃走劇に変貌する。粗筋は映画版と全く同じで、ほとんど「田舎ホラー」と言ってもいいよう恐ろしさだ。

 

 原作は微細に描き込まれた自然描写が圧倒的で、映画版以上に主人公の畏れと悦びを追体験できる。主人公が剥き出しの大自然の中でモラルを超えていく部分など、かなり危険なものを孕んだ物語でもあると思う。主人公が日常に帰還する終盤にはホッとしつつ、この辺も単なる後日譚以上に詳しく描き込まれているだけに嫌な後味が残る。

 

 さておき、とても手応えのある小説であったのは間違いない。コーエン兄弟がブラピ主演で映画化しようとしていた同作者の『白の海へ』も気になる。第二次大戦中の日本が舞台で、墜落したB29の乗組員が東京から北海道まで逃れていく物語だという。これもまたサバイバルの話なのだな。