Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『失われた週末』(ビリー・ワイルダー) 

失われた週末 (ユニバーサル・セレクション2008年第1弾) 【初回生産限定】 [DVD]

失われた週末 (ユニバーサル・セレクション2008年第1弾) 【初回生産限定】 [DVD]

Amazon

 

 先週の金曜日、菊川のミニシアターStrangerにてウルリケ・オッティンガー監督『アル中女の肖像』上映が始まった。前から気になっていた作品なので仕事明けに行こうと画策していたが、抜け出すのに失敗して果たせず。やむを得ず帰宅しての深夜に「アル中男の肖像」『失われた週末』(1945年)を鑑賞。破滅へと突き進むアル中作家を描く名作。酒に限らず『レクイエム・フォー・ドリーム』等、綿々と作られ続ける依存症ジャンル映画の古典でもある。

 

 本作は主人公を更生させようとする恋人や兄の側からではなく、アル中の主人公目線で描かれているのがミソ。禁を破って一杯を口にするまでのサスペンス、アルコールを摂取してからの主人公の変貌ぶり、幻覚症状の演出などほとんどホラー映画のようだった。

 

 主演はレイ・ミランドミランドといえばコーマン『X線の眼を持つ男』、ラング『恐怖省』等、不安に翻弄される役柄が印象的。本作も挙動不審MAXの名演技。主人公は学生時代の栄光を引きずる作家志望の男、しかも33歳にして兄に養ってもらっているという設定。兄のお金くすめたり酒代欲しさに大事なタイプライターを質に入れそうになるなど、アル中以前に人間性に問題ありだろうと言いたくなるオトナコドモだった。

 

 監督はビリー・ワイルダー。コメディのイメージが強いワイルダーにしてはシリアスなタッチの作品。部屋のあちこちに隠された酒瓶、バーカウンターに残ったショットグラスの跡、タイプライター、コート等、小道具の巧みな見せ方はさすがワイルダーだ。

 

 映画のラスト、主人公は恋人(ジェーン・ワイマン)の献身的なフォローで更生に向けて一歩を踏み出す。行きつけの酒場のマスター(ハワード・ダ・シルヴァ)の意外な登場も嬉しい。映画は一応ハッピーエンド、なんだけど主人公の先行きには不安しかないな実際。怖いよ依存症。