Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

読書記録

 最近読んだ本で、まだブログに書いていなかったものをまとめて書き記しておきます。

 

『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』

 昨年末に出た、鈴木慶一評伝(ロング・インタビュー)。オリジナルメンバー2人を失ってなお旺盛な活動を続けるムーンライダーズ。評伝の中ではファンとしてはショッキングなエピソードがいくつも語られている。バンド存続の危機を何度も乗り越えてきたのだな。不幸な解散に至らなかったのは慶一さん及びムーンライダーズのメンバーの特異性というか、独特な距離感、柔軟性のなせる技なのかな。ファンの立場からすると感謝しか無いです。時系列に沿って語られているので、ファンになって以降の自分史と重ねてあれこれ思い出しながら読んでしまった。

 

 

 

『スタンド・アローン 20世紀・男たちの神話』(川本三郎

 作家、俳優、映画監督、スポーツ選手等、それぞれの世界で名を成した23人の肖像。サム・ペキンパートルーマン・カポーティジャック・ケルアック辺りはいかにも川本先生らしいセレクトだけど、意外なところではファスビンダーが。本書の中では唯一川本先生と同世代の人物なので、実は思い入れがあったのかな。

 多彩なエピソードの織り込み方は名人芸。野球選手ミッキー・マントルの項では『フレンチ・コネクション2』でポパイが熱っぽくマントルを推す場面を挙げ、喜劇役者W・C・フィールズの項では『子供たちをよろしく』で家出少年の隠れ家にフィールズのポスターが貼ってあったと紹介。泣ける。

 本書は結構前に出版された(1989年)本なので、今なら『女たちの神話』があってもよさそうだ。川本先生の名文で読んでみたい。

 

 

 

エドウィン・マルハウス』(スティーヴン・ミルハウザー

 ミルハウザーのデビュー作(1972年)。11歳で夭逝した天才作家エドウィン・マルハウスの伝記小説。著者は隣人であり親友のジェフリー。という「子供が書いた子供の伝記」という体で展開する非常に凝った小説だ。精密に描き込まれた子供の世界がとても楽しい。幼児語の詳細な分析には笑った。「んんんんん(不満の表明)」とか。成長したエドウィンとジェフリーが繰り広げる夜の冒険、とりわけ夜の学校に忍び込む場面がとても良かった。

 本作は楽しいだけじゃない。物語の後半では、他人の人生から勝手に物語を読み取ろうとする伝記作家の傲慢さが全面に出てきて、次第に不穏な色彩を帯びてくる。結末もかなり衝撃的だった。

 

 

 

『巨大なラジオ/泳ぐ人』(ジョン・チーヴァー)

 ジョン・チーヴァー短編集。映画『泳ぐひと』の原作収録。郊外の高級住宅街に住む裕福な人々が、何らかの理由でドロップアウトする苦々しい話が多い。飲酒で身を持ち崩す姿が繰り返し描かれて肝が冷えた。『深紅の引っ越しトラック』が特に印象的。映画『泳ぐひと』の原作は、映画以上に荒涼とした怖い雰囲気。そもそもこれをバート・ランカスター主演で映画化しようという企画が凄いなと思う。

 

 

 

黒沢清の恐怖の映画史』(2003年)

 これは再読。黒沢監督が篠崎誠監督と対談形式で自らのホラー映画体験を語る。ファンにとってはもう隅から隅まで面白い一冊だ。「死の機械」「起き上がりこぼし」「触れる幽霊」「串刺し主義」「緩やかな死への軌跡」等々痺れるフレーズが頻出する。

 黒沢監督が怪奇映画ベスト1と推すのがイタリアン・ホラーの名作『生血を吸う女』。監督が新宿のビデマにソフトを買いに行ったら「黒沢清推薦」と書いてあった話には笑った。店の人に顔見られないように下向いてお金払って飛んで帰ったと。何と可愛らしいエピソードだ。

 

 

 

名探偵カッレくん』(アストリッド・リンドグレーン

 娘から薦められて読んだ児童文学。『長くつしたのピッピ』のリンドグレーンによる少年探偵もの。子供の遊びの世界と犯罪捜査のエピソードが上手くリンクしていて実に面白い。クライマックスはカーチェイスだったりして見せ場は盛りだくさんだ。

 新聞に原爆実験の記事がいっぱい載っていたという場面がある。本書は冷戦時代(出版は1957年)に書かれたものなのだった。

 解説は何と山田洋次監督。助監督時代に読んで惚れ込み、映画化を試みた事もあるという。ある設定を『男はつらいよ』に引用しているというから本当に好きなんだなー。時代性とは無縁な娯楽活劇なので、今からでも遅くないから映画化はありじゃないかな。晩年に少年少女が活躍する探偵活劇を監督するなんて素敵じゃないですか。

 

 

 

『言葉人形 ジェフリー・フォード短編傑作選』

 作者も内容も一切予備知識ないまま、図書館でタイトル借りした一冊。言葉人形って何?と。これは大当たり。てか自分が知らなかっただけで、フォードは著名な幻想文学の作家なのだった。最初に収録された『創造』からもう凄すぎて震えた。数段レベルが違う手応え。

 表題作はもちろん、『巨人国』『光の巨匠』等々、一篇の中に複合的な物語と多彩な幻視が織り込まれた濃厚な作品ばかりで圧倒された。正直この凄さを自分の拙い言葉で説明するのは不可能。ぜひ他の作品も読んでみたい。

 

 

 

『白い果実』(ジェフリー・フォード

 短編集『言葉人形』に衝撃をうけたので、長編『白い果実』(1997年)にトライ。ジャンル的にはダーク・ファンタジー、主人公クレイは一種のオカルト探偵で、全編に魔法やアクションの見せ場が満載された娯楽篇だった。第二部に登場する猿サイレンシオ、第一部と第三部で主人公を助ける大男カルーなど脇役も印象的。これは面白かった。装丁も美しい。本作は三部作ということなので、続編『記憶の書』も読んでみようと思う。

 

 

 昨年は小説を中心に、週1冊ペースで読むことができた。今年もペースを崩さず、新しい作家を開拓していきたいと思う。