Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『オールド・ジョイ』(ケリー・ライカート)

 

 

 『ファースト・カウ』がとても良かったので、アマプラにてケリー・ライカート監督の旧作『オールド・ジョイ』(2006年)鑑賞。

 

 久しぶりに再会した旧友二人がキャンプ旅行に出掛ける。ヒッピー的な生活を送っているらしいカート(ウィル・オールドハム)、もう直ぐ子供が生まれるマーク(ダニエル・ロンドン)。ドライブ中の会話も、キャンプの一夜も、何かが噛み合わず、最早昔の自分たちでは無いという辛さが滲み出る。苦い作品だった。

 

 後半舞台は森へ。二人は山中にある温泉を目指して深い緑の中を進んで行く。二人の男が森を歩く場面は『ファースト・カウ』にも出てきたが、二人の間にも自然との間にも親密さは感じられない。山中の温泉の場面は不穏そのものだった。木製の浴槽に湯を注ぎ、バケツで汲んだ冷水で程よい温度に調整する。服を脱いで浴槽に浸かる。それだけの場面なのだが、ただならぬ雰囲気が漂っていた。カートがマークをマッサージをする場面の異様な緊張感。カートがハッパを吸いながら突如饒舌に話し出す。浴槽の中でぼんやりをそれを聞いてるマークの表情。周囲の深い緑。水が流れる音だけが聞こえる。

 

 旅を終えた後、何かを求めて夜の街を彷徨するカートの寂しい姿。一方、幸せな筈のマークもずっと何かのプレッシャーに耐えてるような表情だった。ヨ・ラ・テンゴの音楽が二人の中年男に優しく寄り添う。『ファースト・カウ』では牛が二人の男をじっと見つめていた。本作ではマークの飼い犬が旅に同行し、二人の男の距離を見つめていた。