Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『恐怖 ダリオ・アルジェント自伝』

 

 

 イタリアン・ホラーの帝王ダリオ・アルジェントの自伝『恐怖 ダリオ・アルジェント自伝』読了。表紙は御大の怖い顔のアップで強烈なインパクト。

 

 正直言うとアルジェントの映画はどうも苦手である。イタリアン・ホラーの中で突出した個性を持つ監督であることに異論はないけれど、演出が一本調子だし、(脚本家出身なのに)お話の辻褄合わせに全く無関心で、派手な殺人シーンの演出にばかり注力しているのがどうも好きになれないのだ。ゴブリンのキラキラした音楽をバックに女性を主観カメラで追いまわし、刃物でグサっと突き刺して被害者がガラスを突き破り絶命する・・・みたいなお得意の見せ場を見ているとどうもアホらしい気分になってしまうのだった。モリコーネと素晴らしいコラボレーションを見せた初期の『歓びの毒牙』『四匹の蠅』は例外的に大好きなのだが。そんな訳で、本書はレオーネ『ウエスタン』に参加した経緯などが書かれてるかなと、それ位の興味で読み始めた。

 

 映画業界で働く父と写真家の母の間に生まれたアルジェントの子供時代から、記者時代のエピソード、女性遍歴、監督作の成り立ちなどが独特の感性と視点で綴られている。意外やとても面白い一冊だった。

 

 本書を読んで、自分が苦手なアルジェント作品の強引な展開、脈絡の無さ、細部を拡大するような感覚は、夢の論理の映像化だからなのかと改めて納得した。監督としてはあの語り口しかないとアルジェントは確信を持ってやっているのだ。こんな一節もある。「スリラー、ホラー、ファンタジー、サスペンス、ジャッロ、ノワール‥‥。私たちは自分の夢を定義するために、こうした言葉を使ってるに過ぎない。」と。

 

 記者時代ジョン・ヒューストン単独取材に成功した話やレオーネ『ウエスタン』参加の顛末など、監督デビュー前の話も実に面白い。ベルナルド・ベルトルッチ家の書斎で、それぞれ書き上げたばかりの『歓びの毒牙』と『暗殺の森』の脚本を読み合う場面には泣いた。レオーネが結びつけた若い二人の友情!

 

 また、60年代以降のイタリア映画界、ジャンル映画を取り巻く環境についてのドキュメントにもなっていて興味深く読んだ。苦手なアルジェントが少し好きになったぞ。

 

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