Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『セイラーズ・ホリデイ』(バリー・ギフォード)

セイラーズ・ホリデイ

セイラーズ・ホリデイ


 バリー・ギフォード『セイラーズ・ホリディ』Sailor's Holiday(1997年)読む。買ってから10数年間も本棚で眠っていた一冊。昨年の震災で倒壊した本棚の奥から姿を現した。年が明けて、書物を整理する中で改めて手に取ってみた。


 『ワイルド・アット・ハート』『ロスト・ハイウェイ』『ホテル・ルーム』等、デヴィッド・リンチとのコラボレーションで知られるギフォードは、「ブラック・リザード叢書」の編集を通じてジム・トンプスン、デヴィッド・グーディスらノワール作家の再評価を推進した人物でもある。本の帯に曰く「ビート・ノワール」。なるほど全編に横溢する旅(移動)の感覚、短いセンテンスを生かしたテンポの良さはビート作家の流れなのか。そこにジム・トンプスン仕込みのバイオレンスが加わって「ビート・ノワール」という訳だ。トンプスン(や我が国の平山夢明氏)の諸作に比べると、いささか狂気の純度は低いような気がするが。


 ギフォードには「サザン・ナイツ・トリロジー」という連作があり、邦訳も出ている。『ナイト・ピープル』 (1992年)、 『アライズ・アンド・ウォーク』 (1994年)、『ベイビィ・キャット-フェイス』 (1995年)。超短編集というか、短い章がいくつも連なるという形式で、南部に蠢く悪党どもを描いている。本書も「サザン・ナイツ・トリロジー」に連なるスタイルで、犯罪者たちの群像が生き生きと描かれている。銃撃で、交通事故で、宗教儀式で、ほとんど何の感傷も交えず小気味良いくらいバタバタと人が死んでゆく。まるでスラップスティックコメディのように。


 本書はギフォードの出世作ワイルド・アット・ハート』(1990年)の続編でもある。セイラーとルーラ、そして愛息子のその後が描かれている。紆余曲折を経て、再び一緒に暮らし始めたセイラーとルーラは、マトモな社会人として年を重ねてゆく。息子がグレそうになったり、犯罪事件に巻き込まれたり、あれこれあって60代を迎える。若い頃の過ちを繰り返さぬように、道を踏み外さないようにと必死で生きるセイラーとルーラの姿はなかなか感動的だ。ニコラス・ケイジローラ・ダーンのコンビでそのまま映画化もありだろう。


 映画と言えば、本書には『ブルー・ベルベット』をはじめとして様々な映画が引用される。最終章にはセイラーとルーラの物語を映画化しようと構想する映画監督(しかも『ワイルド・アット・ハート』というタイトルで!)まで登場したりして面白い。引用される映画の中にはニコラス・レイの『孤独な場所で』も。モンテ・ヘルマンのインタビュー本にも出て来たし、実はカルト人気を誇る作品なのだなあと改めて感心した。