Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『寄港地のない船』(ブライアン・オールディス)

 たまに本屋さんに寄ると発見がありますなあ。どういうタイミングなのかわかりませんが、ブライアン・オールディス最初の長編『寄港地のない船』non-stop(1958年)が出ているではありませんか。迷わず購入しました。復刻版ではなくて、邦訳されるのはこれが初めてとのことです。


 目的地に到着するまでに、何世代もの年月を経て旅を続ける巨大宇宙船が舞台。宇宙船は旅の途中で何らかの災厄に見舞われて、乗組員の子孫たちは長い年月が経つ内に自分たちが宇宙船の中に住んでいる事を忘れ、荒廃した船内に繁殖する植物の中で原始的な生活を営んでいます。〈居住区〉で狩人として暮らす主人公コンプレインは、野心家の司祭に誘われて未知の領域である〈前部〉へと向かう旅に出ます。植物が生い茂るジャングルをくぐり抜け、他の部族や〈巨人族〉との接触武装したネズミの襲撃、無重力空間、と様々な苦難を越えて旅を続けるコンプレインたちは、次第に自分たちが巨大な船の内部にいるのだということを理解していきます。旅路の果てに待ち受ける驚くべき真実とは・・・というお話。


 クライマックスで明らかになる巨大宇宙船と住人たちの秘密は、いかにもSFっぽい大仕掛けで嬉しくなりました。しかもラストは非常に前向きで、オールディスの若さ(当時30代前半かな)が感じられます。とにかく「巨大宇宙船の中に植物が生い茂ってジャングルになっている(野生動物や原住民のハンターもいる)」というイメージが強烈で、独自の面白さを生み出しています。そういえばオールディスの代表作『地球の長い午後』も植物に覆われた惑星でのサバイバルを描いていました。解説を読むと、どうやらオールディスの戦地での記憶が反映しているようです。この辺はニューウェーヴSFの盟友バラードと共通していますね。忘れられない個人的な体験や記憶をベースにここまで飛躍させられるのかと驚きますが、それこそがSF、それこそが作家というものでしょう。57年も前の作品なんだなあ、これ。