Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『地獄は実在する―高橋洋恐怖劇傑作選』 


 『リング』シリーズ等で知られる脚本家・高橋洋の作品集『地獄は実在する』読了。氏が自分で「シナリオ教室ではやっちゃいけないと言われているようなことをやっている」と言ってる通り、登場人物の心理や画面に漂う気配なども書き込まれていたりする。なのでシナリオライター希望の人には参考にならないかもしれないが、氏の特異な作劇や人物描写を考える上で非常に興味深く、単純に読み物としても面白かった。ちなみに『地獄は実在する』という物凄いタイトルは、『リング』のオリジナル脚本にあった台詞(本編では使用されなかった)なのだという。


 収録された作品は『女優霊』『インフェルノ 蹂躙』『蛇の道』『ソドムの市』『狂気の海』『恐怖』の6本。『女優霊』『インフェルノ 蹂躙』『蛇の道』の3本はホラー、犯罪映画とジャンルは違えど、脚本を読んでいるだけで怖い。『蛇の道』は映画とラストが違う。オリジナル脚本では、復讐を終えた主人公が通りがかりの狂人にハンマーで撲殺されるという衝撃的な幕切れだった。映画化に際して改変したラストには黒沢清監督の解釈が窺えて興味深いものがある。『復讐 運命の訪問者』も読んでみたいなあ。実録犯罪路線の『インフェルノ 蹂躙』は園子温の『冷たい熱帯魚』と同様のネタだけど、こちらは徹底的に低体温で陰惨な展開なんで心底嫌な気持ちに陥る。映画版はほぼ忠実に映像化していたように記憶する。自ら監督も手掛けた『ソドムの市』『狂気の海』『恐怖』の3本はさらに氏の妄想がエスカレートして混沌とした世界が展開。この中では『狂気の海』のみ映像化されたものを見ていない。今時非常にタイムリーな題材だったりするので是非ソフトを探して見てみたい。「霊的国防」って・・・。


 巻末に「解題対談―地獄は実在する 高橋洋×岸川真」が掲載されていて、これがまた面白かった。何といっても高橋氏の実家の話が強烈だった。氏の実家は二階建ての日本家屋だが、家族は1階だけを使用して暮らしていて、2階は閉め切りになっている上に、階段が無かったという。ある時、高橋少年が納戸を片付けてみたら、階段が隠されているのを発見、昇ってみるとベニヤ板で塞がれていた。妹が生まれて家が手狭になり、2階に子供部屋を造ることになって大工が入った。塞いでいたベニヤ板を外して階段を昇ってみると、布団が敷きっぱなしになっていて茶碗や湯呑の乗ったちゃぶ台が置いてあったという。まるで誰かの日常生活がそのまま封印されたかのように・・・。年に1、2度以前この家に住んでいたという老紳士が訪ねてきて、じっと2階を見上げていたという話も面白い。面白い、と言っていいのかわからんが。氏のインタビューや文章を読むと、そういった個人的な体験やそれによって生じた収まりのつかない感情、映画や文学から得た霊感(妄想?)をいかに映画へと移植するのかということを真剣に追求しているのだなあと思う。著作『映画の魔』(2004年)を読んでもわかる通り、氏は本気である。単なる趣味で面白いとかつまらないとか言ってるだけではないのだ。その実践が脚本の数々であり、監督作品なのだ。その成否はともかく、氏の本気度は作品から強烈に伝わってくる。故に、胸を打つ。久しぶりに『女優霊』見直したくなった。


映画の魔

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<ホラー番長シリーズ> ソドムの市 [DVD]

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恐怖 [DVD]

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