Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『痕跡本の世界』(古沢和宏)

 

 古沢和宏『痕跡本の世界』(2015年)読了。古本屋で買った本や図書館から借りた本など、時折書き込みがしてあったりメモや手紙が挟んであったりすることがあります。元の所有者、前に読んだ人物の痕跡が残っているので、本書ではこれを「痕跡本」と呼んでいます。著者は元の所有者が残した痕跡から、隠されたドラマを夢想します。この書き込みをしたのはどういう人物だろう、この手紙の主は恋愛が成就したのだろうか、等々。

 

 自分もこれまでの読書生活の中で何度か痕跡本と巡り合った事があります。映画パンフレットを買ったら、チラシと半券がホチキスで止めてあって、余白には感想が手書きでびっしり書き込まれていたことがありました。これなんか映画ファンが亡くなって遺族が処分したのかなと。

 

 いろいろ思い出しながら最初は面白いと思って読んでいましたが、次第に退いてしまいました。前の所有者の人生について、必要以上に立ち入ったり想像逞しくし過ぎたり(しかもいい話にしようとしている節あり)するのは、自分としてはモラルに抵触する部分でした。一番の問題は、痕跡本を狙いに行っている(ように見える)ところでしょうか。他者の人生を「偶然」垣間見てしまうところに衝撃と奇妙な味わいがある訳で、本書では「痕跡本」というジャンル化してそれを期待して探してしまうという辺りが問題なのではないかなと思います。問題、というか自分の趣味ではないというところです。さておき、本を所有するということ(そしてそれを手放すこと)、人と本の様々な接し方、とか色々と考えさせる一冊ではありました。