Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ようこそ、おまけの時間に』(岡田淳) 

 

 娘に薦められて『ようこそ、おまけの時間に』(1981年)読んでみました。小学校を舞台にした児童文学、ファンタジーです。

 

 主人公・賢は授業中12時のサイレンとともに不思議な世界へ迷い込む。そこはさっきまで授業受けていた学校の教室だが、クラスメイトは皆茨に巻きつかれて席に座ったまま眠っているのだった。不思議な世界で一人目覚めた賢はカッターで茨を取り払い自由の身になる。次の日、また12時のサイレンとともに異世界へ移行した賢は、眠っているクラスメイトの身体から茨を取り払う。体に巻きついた茨を取り払うと目が覚めて、目が覚めた子供たちは協力して全校生徒を助け出す。生徒を眠らす茨を辿ると校庭に巨木が生えており、全校生徒が協力してそれを切り倒すのがクライマックス。大仕事を終えた子供たちが、給食の牛乳を美味しそうに飲む描写が楽しい。

 

 ファンタジーと言っても妖精や魔物が跋扈する魔法の世界ではなく、子供を眠らす茨の巨木という至ってシンプルな設定だが、こういうのもありだと思います。現実世界では「この子はこういうタイプだ」と決めつけて敬遠しているクラスメイト同士が、夢の世界では本心で自由に振舞うことによってお互い先入観がなくなり仲良くなってゆく様子が自然なタッチで描かれています。異世界の体験が主人公ひとりの妄想ではなくて、クラスメイト全員(やがて全校生徒)が共有しているというところが面白い。12時のサイレンが近づくと、クラス全体がそわそわして落ち着きがなくなるので先生が訝しがるのだ。

 

 作者は岡田淳。児童向けファンタジーを多数発表している作家で、子供向け読書のガイド本などには必ず名前の挙がる著名な方です。何で子供の頃読んだことが無かったのだろうと思ったら、児童文学作家としてのデビューが1979年というので、世代的に少しずれてるのでした。本書を小学生の頃に読んだらきっとハマっただろうなと思います。自分のクラスに置き換えてあれこれ想像したりして。